天壇は北京南部にある、明・清代の皇帝による儀礼の空間である。今は儀礼は行われておらず、遺跡として観光地になっている。明代1420年の建造とある。
とりわけ円形で三重の「祈年殿」は紫禁城と並び北京を代表するランドマーク建築だ。 杉の古木の人工林から、塀によって矩形に囲み取られた内部に、円形三重の基壇があり、祈年殿はその上に建っている。
塀のうちには樹木はまったくない。
日本の祭礼空間は神社の境内のように全体が高い木立に包まれているような感じがあるが、天壇はまったく違う。
手前、南側の皇穹宇あたりは周囲の木々が普通に見えている。
祈年殿の区画に入って、基壇を登ると
周囲の木々の梢は基壇の高さで切りそろえられている。杉系の木だと思われるのだが、幹が異様に太いのに対して、背はとても低い。 そのため、基壇に上がると突然視界が開け、木々の梢の雲海の上に浮き出たような独特の浮遊感がある。
北京市中心部は現代でも高層建築は制限されており、その浮遊感はよく保たれている。
西側
東側
見上げると、こんな風。飛びそうだ。
周囲のジャングルの樹々の梢の高さに合わせて、マヤのピラミッドの高さが決まっており、そこに登ると突然視界が一気に開けるという話を聞いたことがあるが、天壇もまさにそのようなランドスケープデザインがなされているのだろう。
ただ、マヤでは既にあるジャングルの木々の高さを目指してピラミッドを構築するのに対し、天壇では木を剪定して高くならないようにしている。仮想される天上面の設定の仕方がまったく異なるのだ。
さて、祭礼の空間を抜けると、祈年殿の区画から東側に長い回廊が伸びている。供物を運ぶ際に雨にあてないための回廊であるという。
訪れたのは平日の午後であったが、この回廊に地元の人々が大勢集まっている。スパンごとにグループになって、回廊の欄干を縁台のようにして、カードゲームや中国将棋などに興じているのだ。脇から覗く限りでは、賭けをしているようには見えなかった。どのスパンも、とにかくワイワイと騒がしく、実に楽しそうにしている。
この聖俗の隣り合う感じはとても面白く、私にとって今回の北京滞在のハイライトであった。