「一般的に、ちまたに出回っている「デザイン思考」はあまりに表層的すぎて、彼ら(引用者註 クリエイター)には「浅い」と思われている」(p.218)と著者自身が書いているように、本書もまたそのような見てくれなので、正直にいうと眉に唾して読み始めたのだが、これは大変にすばらしい本であった。不明を恥じたい気持ちである。
著者は文系でビジネスパーソンとしてのキャリアを積んできて、いわゆる「デザイン」からは遠い分野にいたところを、様々な契機を経て、IITのデザインスクールで「デザイン思考」を学んだ。その創造的問題解決の手法が非常に強力なものなので、自分はデザインから遠いと思い込んでいるビジネスパーソンにこそデザイン思考は必要であると説く。
評者は、伝統的な建築デザインの教育を受けてきて、今はそれを教える立場にあるので、むしろ「デザイン思考」にすっかりなじんでしまっている。だから逆に、今になって「デザイン思考」を特別扱いする人の気持ちがよくわからないというところがあった。デザインがわからないというのがよくわからないし、ありがたがるのも遠ざけるのもどっちもよくわからなかったのである。それで冒頭に引用したようなバイアスをもっていたわけだ。
本書は、ビジネスの分野からアプローチしてきた人が、どのようにしてデザイン思考を学習し理解していったか、それがどのようなインパクトをもって迫るのかを明快に示してくれる。なるほど他分野からはこのようにデザイン思考が理解されていくのかと目からうろこが落ちる記述が随所にあった。デザインを教えてきた者として、多くを学び直した気持ちである。
各章末にあるように、右脳的なデザイナーの思考と左脳的なビジネスマンの思考との対比というのが基本構造である。
デザイン思考のプロセスは、ステップバイステップですすむのものではなく、「抽象←→具体」「現在を知る←→未来をつくる」の二軸からなる4象限のモード(リサーチ、分析、統合・課題再定義、プロトタイプ、中心に初期課題設定)を自在に行き来するものだとする図式にまとめ、それぞれのモードに、旅人、ジャーナリスト、編集者、エンジニアのメタファーで説明している。pp.108-109のイラストにまとめられている。
また、ワークプレイスの重要性についての詳しい言及があるのも素晴らしい。pp.170-171のイラストもよく感じを伝えている。デザインの場はこうでなくてはならない。
本書はビジネスパーソンが読むべきものであると同時に、デザイン教育に関わる者こそ読むべきだ。そして、デザインを学ぶ初学者の戸惑いと喜びのありようを深く汲みながら、デザイン・スタジオを運営していくことで、より創造的な問題解決が可能な人材を輩出していくことができるだろう。
How might we create an environment that can fully demonstrate the power that people have?
われわれはどのようにして、人々が持てる力を存分に発揮しあえる環境をつくりだすことができるだろうか?
著者は文系でビジネスパーソンとしてのキャリアを積んできて、いわゆる「デザイン」からは遠い分野にいたところを、様々な契機を経て、IITのデザインスクールで「デザイン思考」を学んだ。その創造的問題解決の手法が非常に強力なものなので、自分はデザインから遠いと思い込んでいるビジネスパーソンにこそデザイン思考は必要であると説く。
評者は、伝統的な建築デザインの教育を受けてきて、今はそれを教える立場にあるので、むしろ「デザイン思考」にすっかりなじんでしまっている。だから逆に、今になって「デザイン思考」を特別扱いする人の気持ちがよくわからないというところがあった。デザインがわからないというのがよくわからないし、ありがたがるのも遠ざけるのもどっちもよくわからなかったのである。それで冒頭に引用したようなバイアスをもっていたわけだ。
本書は、ビジネスの分野からアプローチしてきた人が、どのようにしてデザイン思考を学習し理解していったか、それがどのようなインパクトをもって迫るのかを明快に示してくれる。なるほど他分野からはこのようにデザイン思考が理解されていくのかと目からうろこが落ちる記述が随所にあった。デザインを教えてきた者として、多くを学び直した気持ちである。
各章末にあるように、右脳的なデザイナーの思考と左脳的なビジネスマンの思考との対比というのが基本構造である。
デザイン思考のプロセスは、ステップバイステップですすむのものではなく、「抽象←→具体」「現在を知る←→未来をつくる」の二軸からなる4象限のモード(リサーチ、分析、統合・課題再定義、プロトタイプ、中心に初期課題設定)を自在に行き来するものだとする図式にまとめ、それぞれのモードに、旅人、ジャーナリスト、編集者、エンジニアのメタファーで説明している。pp.108-109のイラストにまとめられている。
また、ワークプレイスの重要性についての詳しい言及があるのも素晴らしい。pp.170-171のイラストもよく感じを伝えている。デザインの場はこうでなくてはならない。
本書はビジネスパーソンが読むべきものであると同時に、デザイン教育に関わる者こそ読むべきだ。そして、デザインを学ぶ初学者の戸惑いと喜びのありようを深く汲みながら、デザイン・スタジオを運営していくことで、より創造的な問題解決が可能な人材を輩出していくことができるだろう。
How might we create an environment that can fully demonstrate the power that people have?
われわれはどのようにして、人々が持てる力を存分に発揮しあえる環境をつくりだすことができるだろうか?