忘れずにいて、しかし赦しあうことは可能か。
忘却による安寧と、確執による復讐の連鎖と。
縦の論理と、横の倫理と。
仕事と、愛と。
偽の物語にすがることの愚鈍さと、真実を引き受けることの残酷さと。
誰もが引き裂かれている。矛盾を抱えている。
霧が晴れるにつれてさらに痛みは募る。
忘れることなく、
発狂することなく、
誇りを失うことなく、
人は矛盾に耐えていけるのだろうか。
原題は The Buried Giant だから、葬られた巨人というところか。
巨人は出てこない。忘れたことにしている「巨人」を呼び覚ましてよいのか、と問うている。
『若冲』と続けて読んだので、なんだか感想が似通っている。
結局、本に今の自分を映しているだけなのかもしれない。
被災地では、震災の「記憶」をどう残していくとよいのかを考える時期に来ている。忘れることにも意味があるとして、なお記憶しておくことの意味は何か。