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ダイバーシティ

コクヨの八塚さんにお誘いいただいて、ダイバーシティ経営研究会凸凹ミックス会議に参加してきた。

冒頭、私から視点提供ということで、せんだいスクール・オブ・デザインの取り組みについて紹介した。なぜこんな教育プログラムを、メインカリキュラムと並行して実施する必要があるのか。

まず、伝統的な建築デザイン教育というのは、関連する体系立てられた技術知識を学びつつ、それらを利用して設計を行うことで知識を統合していくプロセスを学ぶという形になっている。さらに深い知識を学び、それに相応しい複雑で高度な設計をしながら知識を統合していく…ということの反復によって、より高い技能の「ピラミッド」を獲得していく。このピラミッドについて、十分な裾野の広がりおよび頂点の高さを得ることができれば、アーキテクトの資格に到達しうるというモデルである。

ここで提供されている技術的合理性にそって体系化された知識は、H.Rittelいうところの「おとなしい問題 tame problem」には対応できるが、「意地悪な問題 wicked problem」への対応はむずかしい。だから、ピラミッドづくりと並行して、意地悪な問題に対応できる能力を獲得するための教育プログラムが必要になる。とりわけ、大学院レベルにおいては。そのために、「多規範適応型コラボレーションによるプロジェクト駆動型デザイン教育」であるところのせんだいスクール・オブ・デザインをやってます……というような次第だ。多規範適応型コラボレーション、すなわち今日の文脈では、ダイバーシティをもった環境において習慣の異なる他者と協働する経験を通じて、意地悪な問題にひるまないタフさを身に付けられるようになる、というわけである。

続いて、八木橋パチ昌也さんがIBMの、太田垣純一さんがP&Gの、それぞれグローバル企業でのダイバーシティ関係施策についてのプレゼンテーション。示唆に富む発表の詳細は近々に研究会のサイトに公開されるはずなので、そちらを見ていただくとして、私にとって面白かったのは、IBMやP&Gにとって、ダイバーシティは手段や目的ではなく、世界規模で優れた人材を雇用しようとした「結果」であり、さらにいえばむしろ「課題」としてある、ということだった。太田垣さんの表現によれば「最高の人材によりグローバルの頂点をめざしていくことの結果として、異文化ダイバーシティの組織にな」ったのだということである。

八木橋さんが指摘されていたのだが、本来、多様性と受容 Diversity and Inclusion とはセットになっているはずであるのに、後者は往々にして忘れられ、ダイバーシティの部分だけがバズっている。これは、ダイバーシティの獲得が何事かをなすための、たとえば企業にイノベーションをもたらすための、手段になっており、さらにはそれ自体が目的化してしまっている証左ではないかというのである。

せんだいスクール・オブ・デザインの例も、ダイバーシティのある環境に身をおいてプロジェクトをやってみるという経験に学ぶという形になっているということは、ダイバーシティは手段として扱われていることになる。これは、意識的に用意して身を投じることがなくてはダイバーシティに富む環境が得られないという、職能の細分化の問題、あるいは地方都市の問題を反映しているわけだ。

しかし、ダイバーシティが不可避の「結果」として現象している組織においては、むしろその受容と管理にこそ課題があると考えられている。太田垣さんが使った「桃太郎」の比喩によれば、鬼を退治に行くのに、わざわざ犬と猿と雉を連れて行くことになってしまい、ドッグフードとバナナと鳥の餌を持っていかなければならない。これはしんどいですよね、と。

そこで、IBMが全社員を対象とするJamを行って自ら社の行動指針を策定してみたり、P&Gがなるべく簡単な英語を使う——accordinglyでなくsoを使えというような——指導をしたり、メールなどを書く際のフォーマットとして Memo Writing のテンプレートが厳格に設定されていたりというような、ダイバーシティを手なずけるための管理手法が開発されてきているわけなのだ。

会での質疑の際に、Memo Writing テンプレートのような画一化ともいうべき管理手法は、せっかく集めた人々の創造性を抑圧してしまうことにならないのか、という質問が出た。もっともな疑問だろう。

桃太郎の比喩を重ねるならば、桃太郎はドッグフードとバナナと鳥の餌を持っていくかわりに、共通の食料として「きびだんご」を使用した。桃太郎は、おばあさんの手による「きびだんご」というイノベーションによってロジスティクスの問題を克服できたからこそ、犬と猿と雉というダイバーシティに富んだチームを編成し、鬼退治というコラボレーション・プロジェクトを成功させることができたのだ。P&GのMemo Writing テンプレートは「きびだんご」なのである。

組織が、世界水準で高い競争力を保持し続けるならば、その組織のダイバーシティが高まることは不可避である。ここではダイバーシティは結果であり課題である。ダイバーシティを保ったまま、それらを包摂するための手法が開発されなくてはならない。一方で、そこで活躍できるメンバーでありつづけるためには、包摂の手法によって飼いならされてしまうことのない「野鴨の精神(IBM)」を鍛えることが必要なのであろう。

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2014年06月12日 01:15に投稿されたエントリーのページです。

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