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建築ITコミュニケーションデザイン論,2013-06-19

10 建築とアーキテクチャ

建築ITコミュニケーションデザイン論 第10回

本江正茂

2013-06-19(水)


すべり台「きょうはつかえません」

近代的な施設=制度 Institution:学校、病院、工場、軍隊

  • 個人単位、クラス分け、
  • だんだん上手になるカリキュラム
  • 時計台、チャイム、時間割、
  • 点呼、出欠、遅刻早退の禁止
  • 朝礼、宿題、試験、一斉放送、訓練、体操
  • 制服、整列、
  • 厚生活動、季節の行事、部活動...etc.

パノプティコン panopticon 一望監視装置

  • '18世紀末に功利主義者のベンサムが効率的な監獄のために発案

  • 近代管理システムのモデルとしてのパノプティコン

    • ミシェル・フーコー『監獄の誕生 -- 監視と処罰』
    • 規律=訓練的(disciplinary=しつけ)な処罰、監視
    • 近代的な管理システム=監視社会の一般的モデル
  • まなざしの経済の逆転:見られているが見えない

    • e.g.壮麗な王の身体→教室の後ろに立つ試験監督
    • 「権力の自動化」=見られていることの永続状態。権力の眼の内面化
    • 「独房的な個人」=まなざしの反射による自己反省の回路
  • 赤信号で止まる:遵法精神の内面化

    • 一極集中の強制型権力ではなく、遍在型で主体構成型の近代権力

法、社会の規範、市場、アーキテクチャ ローレンス・レッシグ

  • 問題行動に課されるコストによる規制、制約条件
  • 規制はこれらの4つの合計になる。相互依存的。

四つの規制手段

  • 規範、慣習 Norms : 暗黙のうちに内面化されたルール
  • 法律 Law : 明文化されたルール
  • 市場 Market:価格に従って人々の行動が規制調整される
  • アーキテクチャ Architecture:環境の設計に従って人々の行動が規制調整される

e.g. 喫煙のコントロール : - 法:20歳以下喫煙禁止 - 規範:人ごみで喫煙するな - 市場:煙草の価格 - アーキテクチャ:フィルタなし、無煙、つよい匂い

例題1 キセル乗車を4つの制約条件から規制するには? : →厳罰化、しつけ強化、運賃低廉化、自動改札化

例題2 飲酒運転を4つの制約条件から規制するには?

アーキテクチャによる規制の事例

  • ファストフード店の回転率操作:冷房、椅子、BGM
  • スキポール空港の便所の蝿
  • シカゴ、レイクショアドライブ(ミースの860/880の脇)の車間線 - fool-proof : SDカード。向きが違うと挿せない。
  • 大人には聴こえない着信音、「モスキート」

アーキテクチャによる規制の特徴

  • 任意の行為の可能性を「物理的」に封じるので、ルールや価値観を被規制者の側に内面化させるプロセスが必要ない。
  • 規制の存在を気付かせることなく、被規制者が「無意識」のうちに規制を働き掛けることができる。
  • 強力かつ低コスト。ただし局地的。

CODE

  • ネットワークでは、アーキテクチャはコード(プログラム)で与えられる。 : e.g. DRM、パレンタルフィルタ
  • コードは権力であるのに、市場の要請とエンジニアの熱意だけで作られてしまう。
  • 古い「法」 vs 新しい「アーキテクチャ」

規律訓練型権力から環境管理型権力へ 東浩紀

  • 規律訓練型権力は『人々に規範を植え付けるため」監禁環境(学校、病院)を必要とする
  • 環境管理型権力は「個人の行動を数字に置き換えて直接に制御する。」

    e.g. 電子カードキー。場合によって入れたり入れなかったり。ネット技術が環境管理型権力を実体化する。

「視線の内面化による規律訓練を通した秩序維持から、個人認証と情報処理による環境管理を通した秩序維持へ」

「内包社会」から「排除社会」へ

  • 配慮なしに生きられる安穏な世界 e.g. ゲーテッドコミュニティ
  • 「安全」と引き換えに失うものは何か?
  • 「モスキート」による不良滞在者の排除
    • 市民は虫なのか?
    • そこで選挙をやる意味はあるのか?
  • ベンチの中仕切り、駅のホームドア

我々が業とする環境=アーキテクチャの設計という行為の権力性を自覚すること

参考文献

  • ミシェル・フーコー『監獄の誕生――監視と処罰』田村俶訳、新潮社、1977
  • 瀧本雅志「パノプティコンを認知させた権力の技術論」『建築の書物/都市の書物』五十嵐太郎編、INAX出版、1999 『10+1』1994年秋号、特集「制度/プログラム/ビルディングタイプ」INAX出版、1994
  • ローレンス・レッシグ『CODE インターネットの合法・違法・プライバシー』山形浩生、柏木亮二訳、翔泳社、2001
  • 東浩紀「情報自由論」『情報環境論集』講談社、2007。http://www.hajou.org/infoliberalism/
  • 濱野智史『アーキテクチャの生態系』NTT出版、2008
  • 大人には聴こえない着信音 http://blog.livedoor.jp/saitama_orz/archives/50506860.html

例題2の答え:飲酒運転の規制

  • 規範:教習所の教育ビデオ
  • 法律:道路交通法違反での罰点
  • 市場:罰金の金額を上げていく
  • アーキテクチャ:エンジンをかける前に息に含まれるアルコールをチェック

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2013年06月19日 14:26に投稿されたエントリーのページです。

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