4 身体と空間(1) 視覚
建築ITコミュニケーションデザイン論 第4回
本江正茂
2013年5月8日(水)
ダイアログ・イン・ザ・ダーク
「Dialog in the Dark」は、日常生活のさまざまな環境を織り込んだまっくらな空間を、 聴覚や触覚など視覚以外の感覚を使って体験する、ワークショップ形式の展覧会です。 1989年ドイツ・ハイネッケ博士のアイディアで生まれ、その後、ヨーロッパ中心に70都市で開催、 すでに100万人が体験しています。 参加者は、くらやみの展示室を普段どおりに行動することは、不可能です。 そこで、目の不自由な方に案内してもらいます。案内の人の声に導かれながら、 視覚以外の感覚に集中していくと、次第にそれらの感覚が豊かになり、 それまで気がつかなかった世界と出会いはじめます。森を感じ、小川のせせらぎに耳を傾け、 バーでドリンクを深く味わいながら、お互いの感想を交換することで、これまでとはすこしちがう、 新しい関係が生まれるきっかけをつくります。(DID in 仙台 開催趣旨文より)
DID、3つのテーマ
- 視覚障害者と健常者が一緒に活動する機会を設けること
- 視覚を遮断することによって五感を再認識する(活性化させる)こと
- この展示ツアーを何人かと一緒に体験することにより、参加者同士の間に、これまでにない「対話」を生み出すこと
Dialog in the Dark in 仙台
2001年10月21~31日於せんだいメディアテーク
実質参加者数:592名。本江も参加。
- 集合。白杖の持ち方。自己紹介。声を覚える。
- 森:木の匂い、落ち葉を踏む、幹や枝の手触り、小川を渡る。
- 街:信号の音、段差、クラクション、クルマ
- 海:陸橋をこえる。砂浜、ブランコ、古いボート、宝探し
- テーブル:様々な感触のオブジェ、音が出るおもちゃ
- バー:席に着く、飲み物を渡す、ワインを飲む、胃袋の形
- 絵を描きながら対話。よそよそしく別れる。
動くと環境のことがわかる。じっとしていると何もわからない。
障害者体験以上に、感覚の解放の問題。マルチメディア?
東京・外苑前で現在開催中。ぜひ行くべき。
ドッベル・アイ Dobelle Eye
- ウィリアム・ドッベルによる人工視覚の研究成果。1999年公開。
- 1968年に研究開始。1970-72年、ヒトの脳内に電極を設置。
- 開発当時は800kgのコンピュータが必要だった。今はモバイルパソコンで可能。
- CCDカメラ→デジタル化→コンピュータ→大脳皮質視覚野にパルス
色は分からない。先天性視覚障害で視覚野が未発達の場合は使えない。
事例にあるジェリー氏は22歳の時に外傷で片目を失明。36歳のとき第二の外傷で全盲となる。1978年(41歳)に手術をうけ、20年以上感染などの問題なく暮らしている。地下鉄にも乗れる。
- イェンズ氏は17歳の時線路際での事故で左目を失明、3年後スノーモービルの修理中に金属片が右目に入り失明。
2002年4月現在、システムは市販され、6か国で8名の患者がインプラント手術をうけている。将来的には手術料込みでUSD $50,000。
「体を動かして帽子を取り、人形にかぶせる。」→ 視覚と身体動作の同調=見えている!
ソースはカメラでなくてもいい。
- デジタルな視覚 vs オプティカルな視覚
- ゲシュタルト=感覚要素の総和以上のもの、総和とは異なるもの
- e.g. 個々の音に対するメロディ
- 中枢−推論説(感覚器官→知覚) vs ファイ現象(仮現運動:点滅する電球が移動してみえる)
要素刺激とゲシュタルトは同レベルにある。
視覚その他の人工眼研究
- カメラからの信号の受信部の取り付け場所で3タイプ
- 網膜/視神経/大脳視覚野
- 脳に近いほど適用可能性は広い、実装が困難。
イエンス・ナウマンさんの事例
- NHKスペシャル「立花隆 ヒトはどこへ行くのか」2005年11月5日放送。
- 8m50sごろから14m33sまで
眼球へのインプラント手術、英オックスフォード大学(2012)
- 「目のサイボーグ化による失明治療が世界で初めて成功!!盲目の男性がマイクロチップを眼球に埋め込むことで10年ぶりに見ることができるように!!」http://commonpost.boo.jp/?p=34619
- “'I've dreamed in colour for the first time in 20 years': Blind British man can see again after first successful implant of 'bionic' eye microchips”
- http://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-2138775/The-eye-borg-First-successful-implant-bionic-eye-restore-sight-blind.html
James J. Gibson ジェイムズ・J・ギブソン(1904-1979)
- 航空母艦に着艦する戦闘機パイロットの視覚の研究。
- 驚異的な「あたりまえの視覚」 vs 視覚心理学実験室での貧しい視覚
- 大地理論 vs 大気理論
- 視覚フィールドと視覚ワールド Visual Field, Visual World。
- 境界、明瞭性の勾配、安定性、残像の位置、姿勢と重力、平行線の収束、食、奥行き
- 「視感覚と視知覚という伝統的な区別」の含意を放棄
- 「知覚と対象の間のズレ」が「ほとんどない」のはなぜか
- 地面の発見。肌理(テクスチャー)の勾配、密度の勾配による奥行きの知覚。
環境の中を動き回る知覚者の知覚。
生態光学(エコロジカル・オプティクス)
- 情報は光の中にある。ただし、放射光ではなく包囲光に。
- 包囲光配列(ambient array)
- vs プラトン:視線とは「目から一直線状に、どの方向にせよ、内から出て行くものが外界で出くわすものと衝突してこれに抵抗を与える」(加藤, p.56)
- 明るさと形、大きさの恒常性。杭の実験
- 視覚ワールドを一度に知覚することはできない。時間を抜きにして空間を理解することはできない。
- 最後の3章:意味、学習、空間知覚と空間行動 → 環境と身体のインタラクション全体へ
- 「形」にではなく「変形」に意味がある。
- 変化しないことではなく、変化することで、対象の不変の性質——不変項(インバリアント)——が明らかになる。
Biological Motion バイオロジカルモーション
Motion Understanding
- 視覚は単純な静止した像ではなく、動きに意味を見いだす。
- 視覚のピラミッドの錯覚を破るには? 動いてみればいい。
佐藤雅彦
- APOC
- 「差分」
矢萩喜従郎
- アトラクティブ・ビジョン(バイオロジカルモーションとは違うが)
メルロ=ポンティ『眼と精神』
「画家はその身体を世界に貸すことによって、世界を絵に変える。」
「わたしの位置の移動はすべて、原則としてわたしの視野の一角に何らかの形で現れ、〈見えるもの〉の地図に描きこまれる。そして、わたしの見るすべてのものは、原則として私の射程内に、少なくともまなざしの射程内にあって、「私がなしうる」ことの地図の上に定位されるのだ。この二つの地図はいずれも完全なものである。つまり、見える世界と私の運動的企投の世界とは、それぞれに同一の存在の全体を覆っているのだ。」
「謎は、私の身体が見るものであると同時に見えるものだという点にある。……この最初のパラドクスは、爾余のパラドクスを生み出さずにはいない。見えるものであり、動かされるものである私の身体は、物の一つに数え入れられ、一つの物である。私の身体は世界の織目の中に取り込まれており、その凝集力は物のそれなのだ。しかし、私の身体は自分で見たり動いたりもするのだから、自分の回りに物を集めるのだが、それらの物はいわば身体そのものの付属品か延長であって、その肉のうちに象嵌され、言葉のすべき意味での身体の一部をなしている。したがって、世界は、ほかならぬ身体という生地で仕立てられていることになるのだ。」
参考文献
- ダイアログ・イン・ザ・ダークhttp://www.dialoginthedark.com/
- Dobelle Institute http://www.artificialvision.com/index.html
- Dobelle Eyeについての論文の和訳 \
- ジェームズ・J.ギブソン『視覚ワールドの知覚』新曜社、2011
- 佐々木正人『アフォーダンス――新しい認知の理論』岩波書店、岩波科学ライブラリー12、1994
- Motion Understandinghttp://www.accad.ohio-state.edu/~asomasun/MotionUnderstanding/Motion.html
- 港千尋『第三の眼:デジタル時代の想像力』廣済堂、廣済堂ライブラリー002、2001
- モーリス・メルロ=ポンティ『眼と精神』滝浦静雄・木田元訳、みすず書房、1966
- 加藤道夫「遠近図法の作図理論の発展・応用・克服」ヘルマン・ゴチェフスキ編『知の遠近法』講談社、2007
- 矢萩喜従郎『アトラクティブ・ビジョン』アー・ドゥー・エス パブリシング、2009
- 佐藤雅彦、菅俊一、石川将也『差分』美術出版社、2008