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2013年06月05日

建築ITコミュニケーションデザイン論, 2013-06-05

8 「情報化社会」という神話

建築ITコミュニケーションデザイン論  第8回 本江正茂  2013-06-05(水)

情報化社会という神話

情報技術が社会を大きく変える!! ホント?

  • 技術と社会の関係は単純ではない。
  • 30年前から,モデルチェンジしながら、ずっと同じようなことが言われている。

    • 『講座情報社会科学8 情報化社会論1 情報化社会の産業システム』学習研究社,1971
    • 『ハイテクノロジーと未来社会』中山書店,1984
    • 『テクノカルチャー・マトリクス』NTT出版,1994
    • 『ソフトウェアの話』日経新書,1971
    • 『高度情報化シリーズ1 高度情報社会の業際展望』大蔵省印刷局,1985
    • 『高度情報化プログラム』コンピュータ・エイジ社,1994
  • cf. 佐藤1996, 31-36

情報化社会論の二つの系列

  • 「ポスト近代社会」 vs 「ハイパー産業社会」
  • 脱工業化        モノより情報
  • 第三の波        もっと便利になる
  • 近代社会の終焉     個人の時代になる

  • 両者が矛盾したまま、存続していられるのはなぜか?

  • 情報化社会の実体はあるのか?→ 存在しない。永遠に未来社会である。
  • なんでもない=なんででもある!

ポスト近代社会論の大物:マクルーハン、ベル、トフラー

マーシャル・マクルーハン 1911-1980

  • 『グーテンベルグの銀河系-活字人間の形成』原著1962
  • 『メディア論-人間の拡張の諸相』原著1964
    • ホットなメディア:高精細で非参加的、一方向:ラジオ,活字,写真,映画,講演
    • クールなメディア:低精細で参加的、双方向:電話,話し言葉,漫画,テレビ,セミナー
    • あらゆる技術は人間の感覚能力や運動能力の拡張。e.g.車輪=脚の拡張
  • メディア技術の変化による時代区分
    • 話し言葉の時代 local and synchronous, intimate
    • 活版印刷の時代 視覚の独立。黙読する活字人間=共同体からの切断=個人主義
    • 電気メディアの時代 主にテレビ。感覚と感覚の相互作用の回復。
    • global villageへ。

ダニエル・ベル 1919-2011

  • 『脱工業社会の到来-社会予測の一つの試み』ダイアモンド社、1975(原著1973)
  • 中心的産業部門による時代区分
    • 前工業社会 農業、常識と経験、資源、伝統主義
    • 工業社会 工業、経験と実験、エネルギー、経済成長主義
    • 脱工業社会 サービス業 抽象的理論、情報、知識中心主義
  • 「脱工業社会」への変化の5つの次元

    • 経済部門 財貨生産部門からサービス部門へ
    • 職業分布 専門職、技術職階層が優位
    • 社会の基軸原理 技術革新と政策決定のための理論的知識
    • 技術の成長 社会的に計画管理し、将来の方向付けのための技術管理・評価
    • 意思決定 知的技術を用いたシステム分析に依拠

      アルビン・トフラー 1928-

  • 『第三の波』中公文庫、1982(原著1980)

    • 1.農業革命 一万年前
    • 2.産業革命 19世紀
    • 3.情報革命 1955-65@USA
  • ホワイトカラーがブルーカラーを上回る。
  • prosumer=producer + consumer
  • 中央集権的国家、マスメディア、マス市場の終焉

90年代、ゼロ年代?

日本社会における「情報化社会論」の時期区分

1.言説主導の「情報化」 1970年代

  • 未来予測ブーム
  • マクルーハンとベル
  • 農業/工業/情報(梅棹忠夫)
典型的技術決定論かつ経済中心主義かつ文明論的
  • モノばなれ、コンピュータよりテレビ
  • ※現代的な「情報化」の諸概念はこのころすでに発生していたが知られていなかった。
  • e.g. ダウンサイジング、ネットワーク、マルチメディア、インタラクティブ etc.

2.システム中心の「情報化」と諸問題の顕在化 1980年代

  • 「ニューメディア」ブーム。
  • 中央官庁主導。
  • 技術中心,ハード中心。自己目的化。
  • e.g. キャプテンによる半端な予約システム
  • ネットワーク的・分散的思考はない。

    3.コミュニケーション中心の「情報化」 1990年代

  • マルチメディアとインターネットのブーム

  • CMCネットワークの現実的普及。
  • パソコン通信,インターネット,iモード
  • 全世界に情報を発信する個人=prosumer

イージーな技術決定論に陥ってはならない。

  • 技術が社会を「情報化」するのではない。
  • 技術は社会・文化によって選択されており、本質的には社会・文化に決定力がある。
  • 情報化社会論の多くは「技術予測の名を借りた未来社会への願望にほかならない。」
  • 本当の問題は,社会の変化が「技術の必然として語られている点にある。」
  • 技術決定論は、社会の選択責任を隠ぺいし、責任回避の構造を生み出してしまう。
  • e.g. こどもにケータイをあたえるな!,ゲーム脳

×  情報・メディア技術 → 情報化社会

  情報・メディア技術

○   ↑↓      → 情報ネットワーク社会

  社会・文化

知識

  • 暗黙知と形式知 マイケル・ポランニー
  • 野中郁次郎 SECIモデル (img)

新しい「魔法の言葉」

  • Web 2.0、MashUp、クラウド、Big Data…
  • EPIC2014/2015

参考文献

  • 吉田純『インターネット空間の社会学:情報ネットワーク社会と公共圏』世界思想社,2000
  • マーク・ポスター『情報様式論』室井尚+吉岡洋訳,岩波書店,1991
  • 佐藤俊樹『ノイマンの夢・近代の欲望』講談社選書メチエ,1996
  • 佐藤俊樹『社会は情報化の夢を見る---[新世紀版]ノイマンの夢・近代の欲望』河出文庫、2010
  • マーシャル・マクルーハン『グーテンベルグの銀河系-活字人間の形成』みすず書房、1986(原著 1962)
  • マーシャル・マクルーハン『メディア論-人間の拡張の諸相』みすず書房、1987(原著1964)
  • テレンス・ゴードン『マクルーハン』宮澤淳一訳,ちくま学芸文庫,2001
  • ダニエル・ベル『脱工業社会の到来-社会予測の一つの試み』ダイアモンド社、1975(原著1973)
  • アルビン・トフラー『第三の波』中公文庫、1982(原著1980)
  • 古川一郎+電通デジタルライフスタイル研究会編『デジタルライフ革命』東洋経済新報社、2001
  • 公文俊平『情報社会学序説』NTT出版,2004
  • マイケル・ポランニー『暗黙知の次元』ちくま学芸文庫, 2003
  • 野中郁次郎『知識創造企業』梅本勝博訳、東洋経済新報社, 1996

2013年06月13日

建築ITコミュニケーションデザイン論,2013-06-12

9 情報と都市。時間と空間の再編成

建築ITコミュニケーションデザイン論 第9回:情報と都市。時間と空間の再編成

本江正茂

2013-06-12(水)

W.J.ミッチェル「居ることの経済性」Economy of Presence

  • そこに居ることのコスト
  • 「非同期」コミュニケーションの成立
    • 声の文化→文字の文化→印刷→電子的コミュニケーション
    • オラリティ orality と リテラシー literacy
  • 情報の流動化
    • e.g. 壁画からタブローへ
    • 時間:synchronous / asynchronous 同期/非同期
    • 空間:local / remote 現地/遠隔、同室/非同室

| | Synchronous | Asynchronous | |-----------| -------------------- | ------------- | |local | Talk to face-to face | Leave note on desk | | | Requires transportation | Requires transportation |
| | Requires coordination | Eliminates coordination | | | Intense, personal | Displace in time | | | Very high cost | Reduce cost | | ———— | ——————————— | ——————————— | | remote | Talk by telephone | Send email | | |Eliminates transportation | Eliminates transportation | | | Requires coordination | Eliminates coordination | | | Displace in space | Displace in time and space | | | Reduce cost | Very low cost |

  • 情報技術はまずコミュニケーションのコストを下げようとする。
  • 次いで低いコストのままコミュニケーションの強度を上げようとする。
  • この時、コミュニケーションのコストダウン相当分を支払っているのは「場所」である。

若林幹夫「「情報都市」は存在するか?」

「情報都市」ビジョンの類型

ありがちな「情報都市」へのビジョン : - 都市の消滅/マーシャル・マクルーハン 1960s - 都市の危機/ポール・ヴィリリオ 1980s - 都市+メディア=局地的な関係の場+非局地的・全地球的な関係の場=情報都市……という図式 - 都市はメディアである/フリードリッヒ・キットラー

ルイス・ワースの社会学的な「都市」の定義 : - 「大量・高密度・高異質的な人口からなる恒常的な定住」 - 大きくても村、小さくても都市

より妥当な「都市」の定義として…… : - 「複数の離散する地域や集団の中で、身体や物財や情報の交通を媒体して、それらを同一の社会の大きな広がりのへ組み込むような関係の場になる定住」 - 「社会の空間的な広がりの中で複数の領域や集団の間の交通関係を媒体するメディアである定住」 - 「間-場所的な場所」「メタ-場所」

 都市には、間-共同体的な普遍的秩序がある。 : - e.g. 政治、経済、宗教 - ただし、都市は特定の土地空間上の人口集積として実現されざるをえない。 - 社会の「土地性」「交通性」の制限 - 道筋的=移動経路的 trajective vs 望遠レンズ的=遠隔対象的 tele-objective/ヴィリリオ

都市の存立を支える具体的なメディア

多数の「メディア」の協働が必要。

  • 標準化された言語・文字
  • 法体系
  • 貨幣
  • 種々の文書の作成と流通を可能にする書記システム
  • 街道と駅制のような交通体系、その訓練と運行システム
  • 度量衡、暦、計時システム

都市は、これら多様なメディアの協働によって媒体された広域的なコミュニケーション体系の中ではじめて可能になる。

マクルーハン「The Medium is the Message」「The Medium is the Massage」

「情報都市」論の問題点 : - 情報化以前の都市というものがあって、それが情報化して情報都市ができる…のではない。 - 現実の都市も、局地的身体的なだけではなく広域的コミュニケーションの場であった。都市は、局地的かつ広域的な関係を可能にしてきた。 - すべての都市は「情報都市」である。

監視社会 Surveillance Society

  • 居ることを知る/隠すことの経済性 The Economy of Awareness of Presence
  • 居ることのリスク The Risk of Presence
  • データ監視。Dataveillance
  • CCTV iSEE \http://www.appliedautonomy.com/isee.html\
  • 「監視社会論は理論的に弱い」(田畑)

地理的情報格差 Digital devide

  • 人間関係の再編成
  • プチ家出、遠隔ナショナリズム、電子的に拡張される親密圏。みまもりホットライン

参考文献

  • 若林幹夫「「情報都市」は存在するか?」 西垣通+NTTデータシステム科学研究所編『情報都市論』NTT出版、2002
  • ウィリアム・J. ミッチェル『シティ・オブ・ビット』彰国社、1996
  • ウィリアム・J. ミッチェル『e-トピア:新しい都市創造の原理』渡辺俊訳,丸善, 2003 田畑 暁生「監視社会論の射程」『人間科学研究』第10巻第1号、2003. [http://www2.kobe-u.ac.jp/\~akehyon/kanshi.html]
  • 松村秀一「21世紀の今,フラー,イームズ,そしてプルーヴェに学ぶ」ギャラリー間編『建築の向こう側』TOTO出版,2003
  • 「監視社会」『ナショナルジオグラフィック』2003年11月号(第9巻第11号),日経ナショナルジオグラフィック社, 2003
  • 環境情報デザインワーキンググループ「環境情報デザインカタログ」『10+1』第33号, INAX出版,2003
  • 五十嵐太郎『過防備都市』中公新書ラクレ No.140,2004
  • デイヴィッド・ライアン『監視社会』河村一郎訳,青土社,2002
  • ウォルター. J・オング 『声の文化と文字の文化』藤原書店, 1991

2013年06月19日

建築ITコミュニケーションデザイン論,2013-06-19

10 建築とアーキテクチャ

建築ITコミュニケーションデザイン論 第10回

本江正茂

2013-06-19(水)


すべり台「きょうはつかえません」

近代的な施設=制度 Institution:学校、病院、工場、軍隊

  • 個人単位、クラス分け、
  • だんだん上手になるカリキュラム
  • 時計台、チャイム、時間割、
  • 点呼、出欠、遅刻早退の禁止
  • 朝礼、宿題、試験、一斉放送、訓練、体操
  • 制服、整列、
  • 厚生活動、季節の行事、部活動...etc.

パノプティコン panopticon 一望監視装置

  • '18世紀末に功利主義者のベンサムが効率的な監獄のために発案

  • 近代管理システムのモデルとしてのパノプティコン

    • ミシェル・フーコー『監獄の誕生 -- 監視と処罰』
    • 規律=訓練的(disciplinary=しつけ)な処罰、監視
    • 近代的な管理システム=監視社会の一般的モデル
  • まなざしの経済の逆転:見られているが見えない

    • e.g.壮麗な王の身体→教室の後ろに立つ試験監督
    • 「権力の自動化」=見られていることの永続状態。権力の眼の内面化
    • 「独房的な個人」=まなざしの反射による自己反省の回路
  • 赤信号で止まる:遵法精神の内面化

    • 一極集中の強制型権力ではなく、遍在型で主体構成型の近代権力

法、社会の規範、市場、アーキテクチャ ローレンス・レッシグ

  • 問題行動に課されるコストによる規制、制約条件
  • 規制はこれらの4つの合計になる。相互依存的。

四つの規制手段

  • 規範、慣習 Norms : 暗黙のうちに内面化されたルール
  • 法律 Law : 明文化されたルール
  • 市場 Market:価格に従って人々の行動が規制調整される
  • アーキテクチャ Architecture:環境の設計に従って人々の行動が規制調整される

e.g. 喫煙のコントロール : - 法:20歳以下喫煙禁止 - 規範:人ごみで喫煙するな - 市場:煙草の価格 - アーキテクチャ:フィルタなし、無煙、つよい匂い

例題1 キセル乗車を4つの制約条件から規制するには? : →厳罰化、しつけ強化、運賃低廉化、自動改札化

例題2 飲酒運転を4つの制約条件から規制するには?

アーキテクチャによる規制の事例

  • ファストフード店の回転率操作:冷房、椅子、BGM
  • スキポール空港の便所の蝿
  • シカゴ、レイクショアドライブ(ミースの860/880の脇)の車間線 - fool-proof : SDカード。向きが違うと挿せない。
  • 大人には聴こえない着信音、「モスキート」

アーキテクチャによる規制の特徴

  • 任意の行為の可能性を「物理的」に封じるので、ルールや価値観を被規制者の側に内面化させるプロセスが必要ない。
  • 規制の存在を気付かせることなく、被規制者が「無意識」のうちに規制を働き掛けることができる。
  • 強力かつ低コスト。ただし局地的。

CODE

  • ネットワークでは、アーキテクチャはコード(プログラム)で与えられる。 : e.g. DRM、パレンタルフィルタ
  • コードは権力であるのに、市場の要請とエンジニアの熱意だけで作られてしまう。
  • 古い「法」 vs 新しい「アーキテクチャ」

規律訓練型権力から環境管理型権力へ 東浩紀

  • 規律訓練型権力は『人々に規範を植え付けるため」監禁環境(学校、病院)を必要とする
  • 環境管理型権力は「個人の行動を数字に置き換えて直接に制御する。」

    e.g. 電子カードキー。場合によって入れたり入れなかったり。ネット技術が環境管理型権力を実体化する。

「視線の内面化による規律訓練を通した秩序維持から、個人認証と情報処理による環境管理を通した秩序維持へ」

「内包社会」から「排除社会」へ

  • 配慮なしに生きられる安穏な世界 e.g. ゲーテッドコミュニティ
  • 「安全」と引き換えに失うものは何か?
  • 「モスキート」による不良滞在者の排除
    • 市民は虫なのか?
    • そこで選挙をやる意味はあるのか?
  • ベンチの中仕切り、駅のホームドア

我々が業とする環境=アーキテクチャの設計という行為の権力性を自覚すること

参考文献

  • ミシェル・フーコー『監獄の誕生――監視と処罰』田村俶訳、新潮社、1977
  • 瀧本雅志「パノプティコンを認知させた権力の技術論」『建築の書物/都市の書物』五十嵐太郎編、INAX出版、1999 『10+1』1994年秋号、特集「制度/プログラム/ビルディングタイプ」INAX出版、1994
  • ローレンス・レッシグ『CODE インターネットの合法・違法・プライバシー』山形浩生、柏木亮二訳、翔泳社、2001
  • 東浩紀「情報自由論」『情報環境論集』講談社、2007。http://www.hajou.org/infoliberalism/
  • 濱野智史『アーキテクチャの生態系』NTT出版、2008
  • 大人には聴こえない着信音 http://blog.livedoor.jp/saitama_orz/archives/50506860.html

例題2の答え:飲酒運転の規制

  • 規範:教習所の教育ビデオ
  • 法律:道路交通法違反での罰点
  • 市場:罰金の金額を上げていく
  • アーキテクチャ:エンジンをかける前に息に含まれるアルコールをチェック

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