"エレベスト―日本初のエレベーター鑑賞ガイド" (梅田 カズヒコ)
日本各地の名エレベータを案内する全国のエレベータ愛好家のための鑑賞ガイド。
世田谷ものづくり学校にて、著者の梅田カズヒコさんから直接購入。
鉄道に限らず、あらゆる乗り物には様々な角度からアプローチする愛好家がおり、それぞれに視点のユニークさを競っている。エレベータもまた乗り物なれば、その世界を愛でる趣味の存するは理りである。本書はその日本初の入門書であって、エレベータを愛でるための様々な視点と評価軸が提示されている。であるが故に総花的性格を帯びざるをえないのだが、本書はエレベータ愛好界確立の嚆矢たる自負とともに、あえてその曖昧さを引き受けている。
エレベータは19世紀半ばに発明され、以降の都市空間を決定的に変容せしめた真のイノベーションのひとつである。垂直な空間を往き来する乗用エレベータのアイデアはずっと昔からあったのだが、それが実用化されるにあたっての技術革新の核心は落下時の非常停止装置にほかならない。これを発明したのが「エレベータの父」エリシャ・オーチスである。ブランド名に残るこの"OTIS"という名を、「オーティス」と検索するとオーティス・レディングなどが出てきてしまう。垂直な空間を駆け登らんとする我々に波止場に座っている暇はないのに。エレベータ界においてはOTISは「オーチス」と表記する。ティだとトゥだのヴィだのいう洒落臭いカタカナ表記が一般化するよりもずっと前から、エレベータはオーチスだからである。
さて、本書を読み終えれば誰しもが、それぞれのフェイバリット・エレベータや、貴種希種珍種のエレベータについて、思いをいたさずにはおかれない。
私があげるのは、本書を入手した帰り道、最寄りの池尻大橋駅でみかけた「専用改札口つきエレベータ」である。
交通バリアフリー法をうけて、各地の鉄道駅のホームまでのエレベータが急速に整備されている昨今ではあるが、既存の駅、特に地下鉄の駅では、スペースに限りがあるので、コンコースとホームとをつなぐ垂直な穴を開ける位置を探すのは非常に難しい。
池尻大橋駅では、メインの改札口の前に、上下線それぞれのホームにつながる位置に、専用のエレベータが設置されている。本来ならば、改札の内側にエレベータを設置するところなのだが、そうはできなかったのであろう。二つのエレベータそれぞれの前に、専用の自動改札が、車椅子仕様で設置されている。しかも、エレベータの定員に対応する形で、改札とエレベータの間に助走路めいたランウェイがとられている。コンプライアンスへの意志とタイトな空間とがせめぎ合う中で出現した、トリッキーなソリューションだといえよう。自動改札でなければできない方式だが、この専用改札に二人の駅員が、仁王門よろしく張り付いて、切符を切るハサミの音を響かせる様子を想像せずにはいられない。
あなたはどんなエレベータが好きですか?
コメント (1)
先生、こんばんは。
OTISとはエレベーターのオーチスなのですね。
今日、初めて”OTIS”の営業車を認識しました。
おそらく、今までどこかで、私の視界には入っていたのでしょうが、私には”OTIS”の重要度が0だったのでDr苫米地さんのいう”スコト―マ”が働いて心理的に見えなかったのでしょう。
私は、エレベーターというと映画”死刑台のエレベーター”を思い出します。マイルス・デイビスの音楽と相まって、自分が主人公になってエレベーターに閉じ込められたようなドキドキ感がありました。エレベーターって、垂直の離れた2地点間を移動する何物にも代えがたい移動手段ですが、故障すると閉じ込められてどうしようもない密室になってしまう恐ろしいモノなんだなあ~改めて考えさせられました。次から、故障しないことを祈りながら乗ります。
投稿者: MORI | 2009年02月10日 21:51
日時: 2009年02月10日 21:51