グラフィソフトの桐木さん(京都工業繊維大学山口研のOBでもある)を講師にお招きしての、既報のArchiCADワンデーワークショップの一回目を終了。
ArchiCADのハンズオンセミナー用の教材にそっての桐木さんの手慣れた進行に、本江と小地沢さんがチャチャをいれながら進むという構成。
ArchiCADやRevitなどの3D-CADというと、手戻りなく矛盾のない建築設計図書を調えることができるドキュメント・プロセッサとしての性格が強調されることが多く、したがってプロ向けのものであり、初心者というよりはひととおり建築設計のプロセスを身に付けてから触れるべきものであるから、大学でやるとするとまあ3年生ぐらいから、とされることが多いのだけれども、様々なスケールの平面図や断面図、立面図、パース、表などが、整合した状態を保ったまま編集されていく様子をあらためて見てみると、これをむしろ初学者むけに使うというプログラムがあってもいいのではないかと思われた。3D CADを初学者に最初から使わせることで、平面と断面と立面と透視図はリンクしているのだという実感を与えながら課題を進めることができるのではないか。
建築は立体なのだから、平面図だけ描くのではなくて、断面図も立面図もパースも、並行して描いていって、常に立体の状態を想像しながらスタディしなさい、プランしあげてから立ち上げただけの「できちゃった立面」は許さん!みたいな話は、どの学校でも一番最初の設計課題でタコができるほど聞かされるだろう。でも、手が動かない人にはこれが難しい。
敷地にマッスをおいてみた段階から、自動的に各種図面が姿を現しているのを確認し、様々な視点からの図面をあちこち編集し変化を確かめながら、徐々に全体の精度を高めていくというプロセスは、3D CADならではものであって、何度も図面を書き直すことになる手描きでは不可能なやりかただろう。建築の設計ってのが、建築をつくるための情報を整合した形でとりまとめるという情報処理のプロセスなんだってことが、わりとすんなり理解できるのではないかな。
そのためには、プロの精緻な要望に応えるうちに膨れ上がっていったコマンド群とパラメータ群を適切に間引いて隠蔽し、ごくごくシンプルなクラスだけを限定的なコマンドだけで使うことができるようなインタフェイスを用意してやることが必要だろう。携帯電話のらくらくホンみたいなことだ。壁と開口とスラブのクラスさえあれば、公園のキオスクの課題ぐらいはできるのだから。
柱一本を定義するためだけに表れる、画面におさまりきらない巨大なダイアログボックスにびっしりと並ぶ入力欄を見てしまうと初学者は萎える。実現したいことに効いているパラメータに目星をつけたり、まだ決めなくてよいところは適当に無視するというのは非常に高度な技なのだ。その点、Google SketchUpはなによりコマンドの少なさにおいて優れている。
CADの入門コースというと、「とにかく触ってみましょう式」のものが多いのだが、パソコン初心者でもないのだから、むしろオブジェクト指向の諸概念、クラスとインスタンスとか、きちんと説明してからのほうがいいのかもしれないと思ったりもした。そのあたりの概念を理解しないと、データベースとして「よい」モデリングをやるのが難しくなってしまうのではないかなあ。その上で、(原理的には)クラスそのものもユーザが定義しうるものであることは意識の中にいれておかないと、よく言われるような、ソフトウェアが定義しているクラスに思考が拘束されてしまう側面ばかりが強調されてしまうことにもなろう。
コンテンツと見た目とが、それぞれ独立したものとして記述されるというのも、概念先行で教えたほうが早いだろうな。これは日常生活に適切な例がないので、喩え話が難しいのではあるが。
とりとめないが、演習につきあいながら設計教育とCADのことをいろいろ考えた一日であった。
夏休み中ということもあって参加者は少なめ。参加しなかった諸君、もったいないことをしましたねえ。次回9月26日の席はまだ空いていますぞ。