映画「ふみ子の海」を見た。仙台の桜井薬局セントラルホールにて。アンコール上映の初日。ほぼ満席。ここはシネコンじゃなくて映画館らしい映画館。トイレが狭くて入り口に段差があったり売店の在庫がロビーにはみだしていたり、施設としての古さは否めず。途中、フィルムが止まるトラブルもあったが、それもまた映画らしいトラブルか。
戦前の新潟を舞台に、貧しさ故に盲目となった少女が、しかし持ち前の努力と周囲の人々の応援で、差別を乗り越え、自立していく物語。按摩の師匠役の高橋恵子が素晴らしい。盲目の役なので表情の演技は抑制されているのだが、きりりと動く所作は実に厳しく美しい。主演の鈴木理子も、いかにも健気で利発な少女を好演している。四季の景観の捉え方や、軍人が差別の権化として登場するあたりなどはステレオタイプ的なところもある。
麩職人や芸者、僧侶、本家の旦那、お嬢様の先生など、厳しくはあっても優しい人ばかり。悪人は出てこない。ふみ子本人の、というよりも、ふみ子の力をリスペクトする人々の物語。差別の反意語は単なる平等ではなく、相互の承認と敬意なのだろう。
私には、劇中にあるような寒さとひだるさの感覚を、たとえば新しい雪下駄の嬉しさと、しかし素足の冷たさとを、わが事としてリアルに想像しきれていないところがある。それは喜ぶべき社会の達成には違いないのだが。
せめて、次の花の時期には、噛んで味わう舌での花見、試してみたい。