を読む。
著者は、アートディレクター佐藤可士和の妻にしてマネージャー。
常に方法を意識しながらメタレベルからプロジェクトを見つめる立場を貫く。
オフィス作りの話にも一章割かれている。
独立後、ふたつのオフィスは極めてタイトフィットで、ひとりもスタッフを増やすことができなかった。そこで三つめのオフィスは、「十人増えても大丈夫な空間」が目指され、実現された。
先の二つのオフィスを手がけたときは、「設計した時点の条件で完成するデザイン」でした。それはそれとして美しく、完成されたデザインですし、コンセプトも明快に伝わっていましたが、ちょっとでも動かしたら壊れてしまうという点においては、繊細で弱いクリエイティブだったと言えます。誤解を恐れずに言いますと、オフィスという空間に求められる条件を満たしていないという意味では、失敗だったと言っていいかもしれません。 でもそれは必要な体験で、自分自身が経験したからこそ、今度はフレキシブルで耐久性のある空間をつくることができるようになったのです。後に佐藤が「カタチで完結するのではなく、理念で完結する。その考え方を手に入れられたのは、ものすごく大きい」と話してくれましたが、実はこれこそ、ブランディングにおける本質といえるのではないでしょうか。(pp.166-167)
ひとりのクリエイターが自分だけで管理し続けることはできない。「多少のことでは壊れない“耐久性のあるシステム”をデザインする」ことが必要だ、という意識を、オフィスのデザインを通じて獲得したというわけだ。
リテラシーが必ずしも高くない組織が使ったとしても、グデグデに崩れていってしまうことのない、強い「耐久性のあるシステム」をもったワークプレイスのアーキテクチャーを構想すること。これは、今私が取り組んでいる仕事でも痛感し、これをやらないと仕事をしたことにならないと主題化されつつある課題なので、共感するところ大であった。
とはいえ、スーパータイトフィットを経験してから緩めるのと、ガバガバの経験しかないのを締め上げるのとでは、ベクトルが全然違うのもまた事実。
とはいえ、真逆のものはかえって似てくるのもまた事実。
こういうマネージャがいるってのは羨ましいなあと思うが、まずはひとり二役で二重人格的にやるよりほかないわな。