を読む。
サイモン・シン『フェルマーの最終定理』青木薫訳,新潮文庫,2006
すばらしくよくできたサイエンス・ノンフィクション。
ワイルズの証明を軸にした,数学の美しさとその完全性に魅惑された数学者たちの列伝。
x^n+y^n=z^n
この方程式はnが2より大きい場合には整数解を持たない。
この極端にシンプルな問題がフェルマーの最終定理。こんな単純な問題が,300年間誰にも解かれぬままに残っており,しかも重要な問題でありつづけたことが数学の凄さである。
1993年,アンドリュー・ワイルズが20世紀の数学テクニックを駆使してこれを証明した。ワイルズのアプローチは,直接フェルマーの定理を証明するのではなくて,すべての楕円方程式はモデュラー形式であるという谷山=志村予測を証明することによって,背理法的にフェルマーの最終定理を証明するというもので,コリヴァギン=フラッハ法と岩澤理論を組み合わせて使うのがミソである。
私にはまったくその意味がわからないが(笑),わからないままでも,そのスリルと悩ましさと発見の興奮は十分に理解でき,手に汗握る思いで一気に読み進めた。難しい話を,その難しさを矮小化することなく,しかし平易に説明する筆者のサイエンスライターとしての力量には感心させられた。翻訳もよい。夏休みにふさわしい感動的な秀作。中学生の時に読んでいたら人生が違ったかもしれない。もっとも自分が数学にむかないことは今では思い知っているから,読まなくてよかったのかもしれないが。
コメント (1)
6年くらい前に、イギリス人で数学専攻の友人から奨められて、英語版でトライして、中途でやめていました。その後日本語版で、やはりサイモン・シンの『暗号解読」を買い、未読。そして、ついこないだ八重洲の丸善で、「ビッグバン宇宙論」(上・下刊)が山積みになっているのを発見。セシル・バルモンドにも通じるのだけれど、数学に魅了された人間たちの話は、美しい。やはり、日本語版で『フェルマーの最終定理』読み終えることにしよう。
投稿者: 松永 | 2006年07月30日 23:57
日時: 2006年07月30日 23:57