本城 直季,『small planet』,リトルモア,2006
以前もふれた本城直季の最初の写真集。模型のようにしか見えない実物の世界。やっと入手。
わかりやすい驚きがあるので,まず撮影技法や知覚のメカニズムへの関心が先立ってしまうかもしれないけれど,そういうテクニカルな言葉では回収しきれない哀切がある。郷愁と疎外とのダブルバインド。
この写真集を見ていると,あたりまえの世界が,ほんとうに健気で愛おしいものに感じられる。
ぼくらは皆ピンのような細い足で,その世界に立っている。
同時に,決して手の触れ得ぬ高みから望遠レンズで見ている。
東京の雪景色で終わるからなのか,ティム・バートンの映画と通じる視点があるようにも思われた。世界を夢のようなものにしてしまうという点で,この写真は雪に似ている。
五月病に心責められる人におすすめ。
追記:
小学生の息子は,どれも「すごく精密につくられた大きな模型」だと思ったようだ。本物を模型みたいに撮った写真だと教えると本気で驚いていた。そのことに逆に驚いた。
どうして私は素直に「すごい模型だな」と思わなかったんだろう。
これほど広範囲で精密な模型をつくるのは(主に経済的に)まず無理なこと。
写真は実物とは違う認識をもたらすメディアであること。
実物を模型のように撮った写真だと文章で読んで知っていたこと。
……そういう知識の外挿による部分はたしかにある。
しかし,はじめて本城のこのスタイルの写真を見たときには,驚きつつも確かに模型ではないことはわかったのだった。
実物なのに模型に見える不思議。
模型に見えるのに模型でないとわかる不思議。