せんだいメディアテークのすぐ裏にあるカフェC7にて,「こころとデザイン」ゼミの今年度最終回として「給食の時間」を行った。茅原さんや土岐さん,受講生諸氏によって準備が整えられた。私はすっかり準備をさぼっていた。すみません,みなさん。
さて,趣旨文にはこうある。
組織的な比較によって初めて生まれる「マイ・スケール」感を味わおう。 おとなの給食は,創造のための語彙と語法の食育なのである。
アントレは水である。
番号をふった3つのコップに違う種類の水が注がれている。銘柄はわからない。これらを味わい,好きな順番にならべ,それぞれの味わいの特徴を自分なりに言葉で表現してみるという課題。
2がまったくなめらかな軟水。3は2よりも少しミネラルが多く味があり,1ははっきりと硬水であった。1のキャラクタは圧倒的だが,2と3の印象は似通っており,飲み比べるうちに印象が混濁していく。
私の好みは2>1>3。
この問いは「好きとは何か」という哲学的な問いを含むわけだが,淡白でクセのない2は慣れ親しんだ感触があり,毎日飲むにはよい,水はそのようなものであって欲しいと思われたので一番。もしかすると水道の水かな,とも思った。仙台の水道水はけっこういいのだ。次点の1ははっきり硬く,飲みにくい代物である。日常的な水としては使いにくくとも,このようなキャラクターのたった水は応援したいと思った。1を置くことによって,水という飲み物のもっている領域が拡張されるからである。皆がこれを嫌っている様子だったことに反発する気もあり,これを次点とする。会場では2と1の関係を正妻と愛人に例えたが,まあ,それは言葉の綾ってものです。3は平凡。もっとも,水のごときものは平凡で清らかであればいいのではないか,とも思う。が,やむなく最下位。
このような印象を参加者9名から聞いて,いよいよ種を明かす。
1. コントレックス (硬度1550)
2. 南アルプス天然水 (硬度30)
3. エビアン (硬度300)
メインディッシュは赤ワイン5種類。
カベルネ・ソービニョンしばりで,あとは価格も産地もバラバラ。水と同様に5つの同じコップに注いで並べる。やはり好きな順番をつけて,それぞれの印象を形容句で示すという課題。
香りを聞いてから口に少しだけ含み印象を確かめようとしていく。ほんのちょっとの量だけれども,いつものようにガブガブと胃に収めるのとは違い,口や食道からドンドンと吸収されるためか酩酊感が早くおとずれる。
水の時の教訓で第一印象で順番を決めようと思うが,ワインは刻々と味が変わるのでそうもいかない。一口めでは棘のある印象だったものが,すっと甘くなっていたりすると,好感度がアップしたりもする。
甲乙つけがたいのが3つ。今イチが一つ。ペチャンコで全然ダメなのが一つというところまではすぐに決まったのだが,上位3つに順番を付けるのが難しかった。
とにかくつけたのが,3>=5>=4>>2>>>>1。
しかし,3,5,4の順位は浮動的。誰と飲むか,何を食べるか,何を話すか,どこにいるか,などのコンテクストがないと決められないぞと思う。
参加者からコメントを聞いていく。ワインは飲み付けないという学生もおり,「全部苦いです」などという。それでは意味がないので,なんとか解像度を上げて言語化するようにと促す。逆に,通ぶった紋切り型のコメントにならないところが面白くもある。
うまく言えないので,それぞれを家族に例えました,という回答があり感動した。1がおばあちゃん,2がおかあさん,このふたつはフレンドリー。残りは男性。3がとっつきにくいおにいさん,5が頑固なおとうさん,4は少し丸くなった将来のおとうさん。4は希望的想像にもとづく。
そして種明かしタイム。
仙台でも有名なワイン店がゼミの趣旨をおもしろがってくださり,熱心に組み合わせを選んでくれたのだそうだ。
1. コンビニで買ったワイン 480円 原産地不明。
2. フランスのテーブルワイン 1,500円。
3. ラ・フェットが指導してチリでつくってるワイン 1,500円。
4. カリフォルニアの有名ブランドのワイン 4,500円。
5.フランスの シャトー・マルゴー 10,000円。
私はおおよそ値段なりの順番をつけてしまっていたわけで,「マイ・スケール」を味わうという趣旨からすると,意外性に欠け我ながらちょっとつまんない結果であった。
『刑事コロンボ』にワイナリーの主人が犯人のものがあった。コロンボが振り返り様に,あ,ひとついいですか,いいワインってやつを見分けるにはいったい何をみればいいんですかね?と訊く。犯人は答える。値段ですね。
ブランドあるいは価格そのものも,「味」を決める重要な要素であることは間違いないし,そうして物語消費をすること自体を否定するものではないが,今回のように,銘柄を隠しシンボル性を剥奪したうえで組織的に比較考量してみるプロセスを通じて,自らの知覚の解像度の高まり,先鋭化を意識することがれきれば,この試みは成功らといえるらろう。
順番をつけるという行為は,空間内に定位された諸アイテムを,その都度便宜的に設定した任意の角度から,いわば強引に,一次元に投影してみせることにほかならない。そのことが意識され,同時に「物差し」はひとつではないからこそ,その「物差し」を設定する行為のもつ権力性や暴力性を自覚することも重要らといへる。先に順位を決めるにはコンテクストが必要だといったのは,かかる「物差し」を確定するためのパラメータを決めるためれある。
それにしても3のチリのは実によかった。
今度買ってこよ。
実は,デザートにビール5種,さらにメニューにない隠しデザートにsmt小川さんの差し入れてくださったカップ酒6種!が用意されていたのだが,予想外にもりあがって時間切れ。これらは「給食の時間その2」あるいは「放課後の買い食いの時間」に饗されることとなるであろう。