を見る。東京ステーションギャラリーにて。
前川國男っていっても知らない学生も多いかも。
スーパーオーソドックスな建築の展覧会。
写真,模型(古いのと新しいのと),図面,スケッチ,素材やディテールの実物,遺した言葉,愛用品。積み上げられた愛聴盤の一番上にはジョン・コルトレーンの『ブルー・トレイン』。
コルビュジェやレイモンド,坂倉など同時代の動向についても合わせて展示し,建築的なコンテクストの広がりも理解できるようになっている。巨匠の回顧展らしい充実ぶりのカタログも,オーソドックス。意外な角度から思いもよらぬ相貌で前川が立ち現れるというような驚きはないが,こうして資料がちゃんとありさえすれば,いずれ誰かがやるであろう。
窓越しに実物の「東京海上ビル」を重ねて見せるアイデアは東京駅会場ならでは。天をついたスカイラインもすっかり埋没してみえて,美観論争も今は昔。
それにしても手描きの図面の,コンクリート断面の精妙な点描や,整然とした細かい文字入れの見事さなどを目の当たりにすると,こうした製図の技芸が失われたことは残念だと思わされた。先日見てきた「書の至宝展」にも通ずるが,書いた人の息を詰めて鉛筆を滑らせている様子がヒシヒシと伝わってくる筆致の緊張感は格別のものである。効率を追求する建築生産のプロセスからは漏れ落ちるのだとしても,ある種の工芸として,生き残る道はあるのではないかしら。こうした手仕事をなぞる楽しみはカタログでは得られないので,展覧会へ脚を運ぶよりない。