を読む。
砂田 光紀, 国土交通省九州運輸局, 九州産業・生活遺産調査委員会,『九州遺産―近現代遺産編101』弦書房,2005
九州の建築についての仕事をすることになって,高木正三郎さんの紹介でこの本を知った。
鎖国時代の長崎や独自外交の薩摩藩の時代から,富国強兵政策下における採炭・製鉄・造船と,九州は日本の近代化の先駆の土地として,様々な産業遺産が集積している地域だ。本書は九州に残るこれら近現代の産業遺産を取りおろしの美しい写真と簡潔な文章とともに,101箇所紹介している。
たとえば最初に紹介されているのは大分の「白水溜池・堰堤」。溜池を支える高さ14mの石造りの堰堤には,あふれ落ちる水の流速を制御するための三次曲面と段状の造形が凝らされている。この凝灰岩の石段を跳ね落ちる流れの姿を捉える涼しげな写真が目を奪う。
ダムや橋,鉄道などの産業遺産,要塞や滑走路などの軍事遺産,庁舎や学校,教会などの建築を中心とする公共・生活遺産,旅館や銀行など商業遺産,これら4つのカテゴリーに整理されている。幕末から昭和30年代までに築かれたこれらは,いずれも素晴らしく魅力的に見える。
その魅力は,あとがきに端的に整理されている。
何がこれほど心を惹き付けるのか。つぶさに観察すると,現代の構造物からは感じ取れない熱を帯びている。新しい技術に果敢に挑戦する情熱。素材をしっかりと選び,職人たちが腕を競い合った末に生まれた威厳と誇り。海外からの技術導入でもたらされた美的感性と融合する日本古来の伝統美。こうした「あたりまえのこと」が積み重なって,遺産と呼ばれるにふさわしい風格を身に纏っている。時には暗い陰を背負う遺産もある。悲しい戦争や強制労働の歴史。それらを包み込み,未来へのメッッセージを発する「時の旅人」がそこにいる。(p.270)
全頁フルカラーで,なんと2000円。
読者は本書のスポンサーに感謝せねばならない。