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『失踪日記』

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吾妻ひでお『失踪日記 』イーストプレス,2005

アマゾンで売り上げ5位であるから,大変なヒットだろう。それだけのことはあって,確かに猛烈におもしろい。「がきデカ」と「マカロニ」とともにあった絶頂期少年チャンピオンの「ふたりと5人」のあづまひでお(この作品は吾妻にとってあまり楽しい仕事ではなかったことをこの本で知る)が,89年に突如仕事を放り出して失踪し,「コジキ」になり,ガス配管工になり,再び漫画を描くが,アル中となって強制入院させられ……という実話の顛末を,自身を題材とした漫画に仕上げている。アンチヒーロー気取りではなく自虐的でもなく,絶妙の距離感で客観化した自分を笑っている。そこが共感を呼ぶんじゃないか。明日は我が身と感じつつ,でもそれが悲惨なばかりでもないようにも思われ,そういうのもアリなのでは,と。

巻末の対談で,とりみきが絵,特に背景を誉めている。「こういうデフォルメされていて,でも何を描いているかはっきりわかって,しかもまるっこくてかわいい,それでいてちょっと心理的不安まで表現されているようなタッチのある絵[p.197]」だというのだが,それは本当にそうだと思った。とりみきが指摘しているp.50の雪景色は読んでいても感嘆したところだったし,コジキとして残飯やシケモクをあさって歩き回るところの都市空間の描写なんかもとてもいい。p.30の夜中の住宅街で「静かだなァ」とつぶやくコマや,p.76の花見の情景を俯瞰するコマなんかすごくうまいなあ。

手に取って,絵が好ましいと感じられるなら,ストーリーは絶対面白いのでおすすめ。

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2005年03月23日 02:19に投稿されたエントリーのページです。

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