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産業総合技術研究所 サイバーアシスト研究センター,デジタルヒューマン研究ラボ編『デジタル・サイバー・リアル—人間中心の情報技術 』丸善,2002
産総研の一般むけ研究報告シリーズ第一弾。
さて,サイバーアシストというのは,文字通り「人間支援技術」であって,具体的には状況依存のサポートとプライバシーの保護を同時に実現することを目標として,そのために「知的コンテンツ」と「位置に基づく通信」というふたつのアプローチを取っている。でもって,さらに具体の研究課題は目標とアプローチのマトリクスにしめされている。(p.78)
テーマ\アプローチ | 位置に基づく通信 | 知的コンテンツ |
---|---|---|
状況依存支援 | 位置情報 | 意味構造 |
プライバシー | 非ID通信 | 割符方式 |
全体の技術的キーワードは「グラウンディング」。IT化は必ずしも人間の快適性にむすびつかない状況を作ってしまっている。なぜか。「技術的に容易なことを優先し,真に人間にとって必要な,しかし実現困難な技術開発を後回しにしてきたからである。その結果,デジタルな世界と我々の住むリアルな世界を結びつける技術がない,あるいは少ない」からである(p.71)。この「結びつける技術」がグラウンディングだ。グラウンディングは,人工知能研究の分野で「シンボルを実世界にグラウンディングする」という意味で使われてきたものであるそうだが,サイバーアシスト研究センターでは,自動的なグラウンディングはまだまだ難しいので,「人工知能的なアプローチではなく,人間との協調による手法を探りたい」としている。
グラウンディングをさせるための具体的な情報技術の開発研究が上記のマトリクスの中身だ。本書にはその内容がコンパクトに紹介されている。
思うに,環境情報デザインというのは,グラウンディングがなされてデジタル情報が実世界に結びつく,まさにその環境をいかにデザインするのか,という課題に答えようとするものだ,といえそうだ。
もうひとつの「デジタルヒューマン」というのは,コンピュータの中に再現された人間のモデルのことである。機能や構造,形状などを目的にあわせて構築し,エンターテイメントや,医学,人間工学的設計などで使う。もちろん,全面的なデジタル・フランケンシュタインを作ろうというのではなくて,「遺伝子構造から脳内神経活動まで,その仕組みのすべてをコンピュータモデルで再現しようということではない。むしろ「人間の機能」のモデル化をめざす(p.121)」としている。だから,「人間の外郭形態を持たないモデル」もまたデジタル・ヒューマンである。この「人間の外郭形態」という言葉遣いが妙に生々しくて実によいな。
冒頭の年寄りの自慢話大会みたいな鼎談は野暮だと思いましたがね。