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植田実『集合住宅物語』みすず書房,2004
同潤会から代官山まで,首都圏の代表的な集合住宅を訪ねた記録。『東京人』の連載をまとめたもの。集合住宅をキャスティングして語られる東京の歴史物語ってところだ。
写真は鬼海弘雄。これがとてもよい。住んでいる状態での家具やしつらいの写真(かなり片付けているようにも見えるが)が多くあり,いわゆる建築写真ではない。夕方の,低い色温度で撮影されていて,対象の濃密な気配を見て取れる迫力のある写真であって,それだけでも楽しめる。昨今建てられている建築が,このような気配を獲得することはないと思われる。もちろんまた違う気配を持つのだろうけれども,こういうのではないだろう。
同じ著者に『アパートメント—世界の夢の集合住宅 』(平凡社,2003)というのもあり,体裁は異なるが姉妹編といえる。こちらの写真は平地勲。鬼海に比すればさっぱりしているが,住民はじめ人が映った写真が多く,これはこれで隅々まで見られて楽しい。
住宅は人が住んでナンボなので,引き渡し後をフォローしたこういう仕事をもっともっとみてみたいと思う。住宅に限らず,公共建築やオフィスビルでも同じような試みができるのではないかなあ。
ところで,私はこの本を,仙台のダイエー泉店のむかいにある八文字屋で購入した。郊外型のわりと大きくて専門書も扱っているが,まぁ普通の書店である。しかし,ここになんと「みすず書房コーナー」があるのである。しかもかなり大きい。明らかに場違いな品揃えだといってよい。なぜこのようなものがここにあるのかわからないが,私は仙台市民として,この八文字屋の「みすず書房コーナー」をぜひ応援したいと思い,今後,みすず書房の本はなるべくここで買うことにしようと決めた。amazonにリンクしない由縁である。