のトークイベントに出かける。仙台デザインウォークのイベントのひとつ。
西山さんは空想生活で知られるエレファントデザインの代表。私の学生時代からの古い知人でもあって,顔を見るのは十数年ぶり。右足を骨折しており松葉杖を引いていた。
さて,空想生活のシステムはよく知られているが,面白かったのは,写真ベースの observation and notion catching という方法。これは,協力ユーザに撮影してもらった日常の生活環境の写真を大量に収集し,そのシーンの観察の中から潜在的なニーズを発見し物語的に記述していくことで,新しいデザインのニーズを掘り起こしていくというもの。
サンプルとして提示されたのは,「クローゼットと洗濯カゴの中間」の状態におかれる衣類ってたくさんあるじゃないかという発見から導かれた「冷房以上乾燥機未満」という空調機の提案。
ニット類やスーツ。一日着れば汗が染みる。そのままクローゼットに戻すと,まわりの衣類に臭いや湿気が移るから,そうはしない。かといって下着じゃないから着るたびに洗濯したりクリーニングに出したりもしない。軽く干しておいて,何日かしたらまた着る。結果,そのままハンガーにかけて長押(なげし)に下げたままになったり,椅子の背にかけられていたり,している。なんとなく置き所がなくなっている。
このようなステイタスにある衣類のための置き場所を確保し,さっぱりと乾燥させておくためのシステムを提案しようというわけである。よるべない衣類の様子を大量のユーザの生活の写真から探し出し,リード文をつけて言語化し,ひとつの物語に織り上げていく。
こういう「いわれてみれば,なるほどたしかに」という提案は,ちょっと勘がいい人なら,ひとつふたつならやれるかもしれない。しかしそれを組織的かつ恒常的に一定以上の説得力をもって行ない続けるにはどうすればいいか,というのが西山の問題意識である。そして,こうした notion catch のスキルを身につけるための教育プログラムを開発しているところなのだそうだ。デザイナーだけでなく,エディターの経験のある人が数ヶ月のトレーニングをすれば,うまくやれるようになるという。IDEOとも協力してやっているようだ。
同時に,日常の写真の提供者を募ってもいる。今回のトークイベントでも,写真の提供者を募っていた。プライバシーまるだしってことになるけどどうなの?,と質問すると,写真をメールでうけとって写真の投稿社情報を管理している担当者は写真そのものを見ることができず,同時に写真そのものを扱う担当者は写真のIDと投稿者の個人特定情報以外の属性情報にしかアクセスできないようにしている,という。
これはすごくおもしろい技だと思うので,ぜひ大学の教育プログラムに組み込みたいと思っているところだ。