ハーフミラーで覆われた便所。中からは用を足しながらでも外が見えるが,外からは見えない。
Monica Bonvicini によるインスタレーション "Don't Miss A Sec"。
「一秒たりとも見逃すな」ってとこでしょうか。
ロンドンのテートギャラリーの前に設置中らしい。
中はこんなふう。外でガラスを掃除中。便器は刑務所用のもの。
ベンサムのパノプティコンやら,CCTV(街頭監視カメラ)などを引き合いに出してくる紹介記事はこちら。
MSNBC - A new way to view London: from a toilet
(写真はこっからの直リンク)
視線を一方通行にするハーフミラーという素材の特性と,排泄という見たくない/見られたくない行為とを結びつけて「まなざし」の非対称性を露出させることが作品の主題のひとつなのだろうな。
もしも,この鏡を裏返しにすると風俗の「のぞき部屋」と同等の空間になるのかな。いや,のぞき部屋はのぞいている人たちどうしは互いに見えないようになっている(らしい)し,かつその視線系全体が都市の公共空間から隠されているという点が違うな。
「まなざし」に限らず,面の表裏の非対称性ってことに拡張して考えると,赤瀬川原平の「宇宙の缶詰(蟹缶)」とも通じてくるな。「宇宙の缶詰」にはバリエーションがあって,デュシャンよろしく中にいろんな秘密のものを入れたりしたらしいのだけど,缶切りを入れておくってのがあったはず。さすが赤瀬川原平。
アートの缶詰と言えば,ピエロ・マンゾーニの「芸術家の糞」。文字通り自分の糞を缶詰にしてサインしたもの。
Art Minimal & Conceptual Only
マンゾーニまでくれば,ボンヴィチーニまであと一歩だ。イタリアつながりでウンコつながりってところまで来たから,あとは金属vsガラス,署名vs匿名といった筋でストーリーをひねり出して,内と外をふたたび結び合わせる円環構造に持ち込むのだ。
それから,この記事を見て最初は,
吉祥寺に,鏡面仕上げのステンレスで全面覆われた建築があって,初めて見たときは驚いた。ドアさえどこにあるやら分からないんだ。
とか
香港のペニンシュラホテルの最上階にスタルクがデザインしたバーがあって,そこの便所の小便器は窓を向いて足下の低い位置に設置されていて,百万ドルの夜景にむけて「いたす」というしつらえになっていて,並び合わせた見知らぬ白人客と思わず顔を見合わせて笑った。
とか,とりとめない記憶がよみがえったのだ。