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『創造学のすすめ』

を読む。『失敗学のすすめ 』の続編にあたる。

畑村洋太郎『創造学のすすめ 』講談社,2003

関連:失敗学会

第5章「具体化の方法」が私にとってはハイライトであった。

デザインプロセスにおいて,議論を抽象化し,より上位概念に登り全体構造を構築するステージがある。その後は具体化の局面である。具体化できなければものにならない。当然だ。しかし,それが簡単ではない。


おそらくほとんどの人が「下位概念の世界の要素から属性を削ぎ落として上位概念に登ったんだから,今度はその逆で上位概念の抽象の世界のものに属性をつければ具体の世界に降りられるのではないか」と考えると思います。(中略)どうもその考え方ではうまくいかないのです。(p.142)

「武士の商法」や学者の「机上の空論」はそうしたものである。そうではなくて,
自分の頭の中にある具体の世界のものを,上位概念の世界でつくりあげた全体構造に当てはめてみるのが具体化の実体です。(p.143)

すでに知っている具体的な要素や構造を「上に登らせることだけが可能」(p.145図)であって,「抽象の世界から具体の世界へ降りるための要素や構造を自分の頭の中に備えていない」と,「ある現象を見て上位概念に登ることはできても,そこで得たものを創造に生かすことができない」(p.147)という指摘である。

そりゃそうだ。
そりゃそうなんだけれども,私の仕事としては,設計教育においてこうした具体的なるものをいかに提供し,知的な引き出しあるいは「思考のバスケット」を満たさせるのか,が問題になってくる。畑村さんは「日頃から体感・実感を伴う体験」をして「多くの使える知識や体験を身につけることが思考のバスケットの内容の充実につながるのです」(p.151)と言う。御意。そりゃそうだとも。

現場だけが具体的な経験を提供してくれる。
そして,現場はそれぞれのドメインに属している。

率直にいって,私には建築のドメインに属しており,私の思考のバスケットは(多くはなくても)建築の具体で満たされている。だからこそ少々変なこともやれる。そういう意味では,建築は肥沃なドメインである。(同じようなことは以前にも書いた。んー,ドメインという概念の使い方が混乱してら。)

建築なら建築,機械なら機械と明瞭な業界が形成されているのに対応した従来型のドメイン指向の設計教育であるならば,その先には歴然とした現場が控えており,具体的なるものはイメージしやすく,入手しやすい。学生を連れて行ける現場があるってことはすばらしい。

しかし,本学のようなコンセプチャルなアプローチを取ろうとすると,果たしてどこにその具体的なるものがあるのかが学生からは見えにくくなってしまう。それは怖いことだ。かといって,どっぷりと既成のドメインに嵌まり込んでしまうことの限界もまた明らかなのだけれどね。

具体化が問題だ。
俺のバスケットは小さいよ。ぐはぁ。

コメント (7)

もとなが:

撫でるキーボードなどを具体的に購入してみるとか。

もとえ:

それだ!

もとえ:

一般化していきやすい「思考のバスケット」を提供する方法として,建築教育のシステムは有効なんじゃないかとは思ってんだけどね。我田引水か?

もとなが:

たしかに一般化しやすいと思います。いや、んー、それを一般と呼べるかどうかはわからないけれども、応用可能であることは確か。

具体化のプロセスというか運動を経験していないと、バスケットを満たしている具体を使えない。で、その運動の作法のようなものは、現場をちょっとのぞいてもわからない。具体化の方法を思いつく瞬間から具体に落ちていくまで継続的に立ち会う機会が何度も必要で、それはなかなか難しいことですよね。

もとなが:

撫でるキーボードなどを具体的に購入し、それを使うアプリケーションを思いつき、具体化するのです。そうすればいいのです。

もとえ:

撫でるキーボードなんてなものにピクピク反応するようになっちゃったのはどうしてなんだろう?,って話だよ(笑)

いきなりPowerBookのキーボードを取り替える勇気はないので,買うなら外付けですけど,さすがに高いんでねー。触ってみてからにしたいんだよなぁ。

もとなが:

PowerBookのを取り替えて、慣れるまではそのPowerBookに普通の外付けキーボードをつないでおけば万事解決!

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2004年01月29日 22:35に投稿されたエントリーのページです。

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